不器用上司のアメとムチ

「……そういう簡単なところが扱いやすいよね、ヒメは」


あたしが……簡単……


「じゃあ……久我さんに対抗してたのは……?」

「あれはただ単に久我が気に入らないから、簡単にヒメを渡したらつまらないと思って」


そう言って京介さんがあたしに向けたのは、いつもと同じキラキラ眩しい笑顔。

けれどあたしの胸は熱くなるどころか……痛みを伴って、冷えて行くばかり。

あたしは自分でも、自分が“簡単”な女であるという自覚がある……


簡単だから、久我さんにもいいように弄ばれて傷ついて。

簡単だから、京介さんに必要とされてるって、都合のいい勘違いができたんだ。


「……ほんと、バカですね、あたし……」


涙より先に、乾いた笑いが漏れた。

そうやって茶化さないと、立っていられそうになかった。


「それは今に始まったことじゃないさ。……さ、彼女は先に来ているはずだから早く行こう」

「……はい」


あたしが笑おうが泣こうが、京介さんの心には何も影響を及ぼさないんだとわかって、またあたしは鼻で笑った。

ここから逃げ出す気力もないし。

どうせなら京介さんの新しいお気に入りを見てから盛大に泣けばいい。

今度は誰も慰めてくれないけど……それでいい。

男の人なんて、もう。

誰も信じられない……

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