不器用上司のアメとムチ
「あたしじゃ……だめってことですか……?」
店内に向かって先を歩く彼の背中に、あたしは疑問を投げ掛けた。
泣きそうなのを堪えて。
優しい言葉を期待して……
けれど振り向いた京介さんは、あたしを哀れむような目をして言ったのだ。
「ついこの間まではなかなかいい人材が現れなかったから、見た目だけはいいヒメをこのまま側に置いておくつもりだったけど……
最近の面接でやっと、僕好みの女性が現れたんだ。彼女、他の社も受けるというからこの間慌てて口説きに行ったよ」
それはもしかして、私用だからついて来なくていいと言った、あの日……?
「それでもし彼女を気に入れば、ヒメはお役御免ということになる」
「そんな……!だって、京介さんが戻ってきて欲しいって言うからあたし……っ」
「ああ……新しい子が見つかるまでのつなぎとしてね。彼女はまだ学生だけど、授業の合間に来てもらってすぐに仕事を教えるつもりだ」
「前に……愛、してるって……あれは、嘘だったの……?」
もう傷つく言葉しか言われないのが分かっているのに、京介さんにすがるようなことばかり訊いてしまう。
だって、今のあたしには……
京介さんしかいないのに……