不器用上司のアメとムチ

久我さんはそう言うと、さっさとテントに背を向け出ていこうとする。

……心細い。

だけど久我さんには久我さんの仕事があると思うと、引き留めることはできない。


少し恨めしい気持ちで背中を見つめていると、久我さんがくるっとこちらを振り返った。


もしかして、あたしを一人にしたらやっぱり可哀想と思ってくれたとか……?


「――――ここ、人気(ひとけ)がないから妙なことすんのに使う社員が居るらしい。運悪く鉢合わせたら、ここでそんなことすんなって言っとけ」

「へ……?」

「じゃーな。ちゃんと数えろよ。困ったときは呼びに来い」


顔の横まで上げた手をひらひらさせて、久我さんは居なくなってしまった。


……ここで、妙なこと。


あたしはぐるりと視線を一周させ、眉をひそめた。


こんな汚い場所でなんて……

あたしなら、絶対にいや。


京介さんの部屋にあるみたいなふかふかのベッドの上が一番……

そこまで考えてから、はっとして自分の頬をぺちぺちと叩いた。


もう、あそこには戻れないんだから……


真剣に段ボールを数えるのが、今のあたしの仕事。それをまっとうしなくては。

< 17 / 249 >

この作品をシェア

pagetop