不器用上司のアメとムチ
あたしの身体は膝や腕を擦りむいていた以外は全く問題がなく、すぐに退院の手続きができた。
どうせ時間のかかる会計なんかは後回しにすることにして、あたしは佐々木とともに久我さんのいるという病室に向かう。
「ねぇ……」
西日の差す廊下をひたひた歩きながら、あたしは佐々木に尋ねた。
「あの人……生きてるよね。殺しても死ななそうな顔してるもんね?」
「…………」
佐々木は、何も答えてくれない。
「ねえ……何か言って」
「……自分の目で見た方がいい」
佐々木のこんな暗い声を聞くのは初めてだ。
「やめてよ……そんな言い方」
あたしは、最悪の事態を想定しかけた頭をぶんぶんと振る。
勝手に死ぬなんて、そんなの許さない。
久我さんにはまだまだ文句を言い足りないんだから。
お願いだから……もう一度、あの疲れたような低い声を聞かせて。
あたしに何か、憎まれ口を叩いて。
どうか、どうか無事でいて……