不器用上司のアメとムチ

佐々木が扉をノックすると、「はい」と森永さんの小さな声が聞こえた。


そして二人で部屋に入るとすぐに、痛々しい久我さんの姿がいやでも目に入った。


頭と……そして片方だけ布団から出ている手が、包帯でぐるぐる巻きだ。

片目には眼帯をしていて、そんな場所まで傷ついたのかと思うと胸が締め付けられるように痛くなる。


けれどちゃんと治療がしてあるし、布団が規則的に上下していたから……
生きてるってことだけは確認できて、少しだけ救われた。


「今……どういう状態、なんですか……?」


あたしは、ベッドの脇のパイプ椅子にうつむいて座る森永さんに、声を掛けた。


「命に別状はないらしいけど……意識が戻らなくて」

「でも、待ってれば必ず目が覚めますよね……?」

「それが……先生もわからないっていうの……」


――――そんな。

ぎゅっと拳を握って久我さんを見つめていると、森永さんが立ち上がりあたしに席を譲った。


「こういう時……大切な人の呼びかけで奇跡的に目が覚めることがあるらしいの」

「え……?」

「私……あなたにはそれができるんじゃないかって思う」


そう言って私の肩を抱き、椅子に座るよう促す。

扉の前で立ったままだった佐々木の方を見つめてみると、彼は優しく微笑んで言った。


「俺ら、とりあえず外出てるから……なんかあったら、呼んで」


そうして森永さんと二人、病室から出て行ってしまった。


……大切な人の、呼びかけ。


あたしはゆっくり視線を部屋の中に戻して、傷だらけの久我さんを見つめた。

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