不器用上司のアメとムチ
外に出ると、秋の冷たい夜風が火照った体に心地よかった。
でも、ゆっくりしてる暇はない。
会社を出る前に携帯を開いたら、佐々木から何回も着信が入っていたのだ。
きっと怒ってるよね……もう七時過ぎてるし。
だけど、かけ直してもなんて言い訳したらいいのかわからないから、今はただ急いでお店に向かっている。
前を歩く男二人は足が長いからいいけど、あたしは歩幅も小さいしヒールの高いパンプスを履いてるから、けっこうきつい。
「ヒメ、大丈夫?」
京介さんが振り返って、あたしに手を差し出す。
こういう気遣いができるのは、やっぱりさすがだなぁ……
感心しながらその手をつかもうとすると、寸前でパシン、という音がして京介さんの手が視界から消えた。
「……どさくさに紛れて人の女に触ろうとしてんじゃねぇよ」
どうやら久我さんが、彼の手をはらったらしい。
その声はものすごく不機嫌そうで、あたしはそれが嬉しかった。
だって……明らかにヤキモチ、だよね?