不器用上司のアメとムチ
あたしがにやけているのに気づいたのか、久我さんは一瞬ばつが悪そうな顔をして、それからゴホンと一度咳払いをした。
「……ほら」
そうして京介さんよりずっとぎこちない動作で、あたしに手を差し出してくれた。
わぁ……久我さんと手を繋ぐの、初めてだ。
もう何度か一緒に帰ったことはあるけど、久我さんはいつもすぐにポケットに手を入れてしまうから、あたしはその腕を控えめに掴むことしかなかった。
京介さんに感謝しなきゃ……
あたしは目の前の大きな手に自分の手を重ね、しっかりと握った。
「……いいね、仲が良くて」
京介さんがぽつりと呟く。
その横顔は物憂げで、やっぱりまだ恋患いから抜け出せてないみたいだ。
「お前……今度こそ本気なんだろうな。その……洋品店の娘だっけか」
「ああ、本気だよ。だって聞いてくれよ。彼女の容姿は全然僕の好みじゃないし、彼女は僕に対して失礼な発言しかしないんだ。
それなのに、四六時中彼女のことばかり考えてしまう……
こんな経験は初めてだよ」
「……35で初恋かよ」
「……悪いか?」
「いや……いいんじゃねぇの?」
同い年の二人の間に挟まれて、彼らの会話を聞いているのはなんだか不思議で、でも居心地は悪くなくて。
そうしているうちに、あたしたちはお店の前まで来ていた。