不器用上司のアメとムチ

「久我さん……」

「ん?」

「みんな……中で待ってますよ?」


知ってる、と言って身体を離した久我さんは、あたしの顔を見つめるとまた腕に力を込めて抱き寄せ、そして触れるだけのキスをした。


「……これ以上したら、止まんねぇからな」


たった一度のキスと、久我さんの何かを我慢したような声、熱っぽい視線で、あたしの身体はさっきの行為を思い出して疼いてしまった。

あたし、こんなにふしだらな女だったっけ……もう、久我さんに溺れて、どこまでも流されちゃう……


やっとの思いで絡まった視線をほどき、個室に戻るとすでに乾杯は済んでいた。


「今日の主役は久我さんなのに……」

「ま、遅れた俺らが悪いだろ。お前は何飲むんだ?」


ドリンクメニューを久我さんと一緒に覗き、あたしはモスコミュールを、久我さんはビールを店員さんに注文した。

数分であたしたちのドリンクが運ばれてくると、佐々木がチャラ付いた色のカクテル(かき氷のブルーハワイみたいな青。いったい何味なんだろ……)が入ったグラスを掲げ声を上げた。


「じゃー改めて乾杯しますか。久我さんの復帰と、副社長の左遷と、それから森永さんの……」

「わ、私は別にいいって……!!」


森永さんが佐々木の服を掴んで、焦ったようにそう言った。

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