不器用上司のアメとムチ
「梅チャン、おっはよー!」
「……おはよ」
翌朝、出社したあたしを出迎えたのは顔に締まりのないご機嫌な佐々木だった。
無視されなくなったのは嬉しいけど、朝からいきなりニヤケ顔を向けられるのもなんだか気持ち悪い。
管理課内にはまだ他の誰の姿もない。
久我さんが遅いなんて、珍しいな……
そう思いながら部屋の端にある書類が山積みのデスクをぼんやり見つめる。
「……久我さんに用事?」
気がつけば佐々木があたしの顔を覗き込んでいて、我に返ったあたしは首を横に振る。
「ううん、大したことじゃないの。それより、昨日のプロポーズはうまくいったの?」
あたしが聞くと、佐々木は急にしおらしい表情になって教えてくれた。
「深山チャン、昨日管理課に来る前に生産統計の課長に事情を全部話してきたみたいで……
課長はびっくりしたらしいけど、もう盗んだ金は俺と協力して被害者に返してあるし、いつもの働きぶりを評価してるからお咎めなしにしてくれたらしい。
だから、俺の嫁になる必要はなくなったわけだけど……」
そこまで言って、急に黙る佐々木。
もしかして、断られちゃったの……?
と、私が心配したのもつかの間。
佐々木はまただらしない顔になり、こう言った。
「これから二人で、今度はちゃんと結婚資金を貯めて、そしたらお嫁さんにしてほしいって、深山チャンが言ってくれたんだ」