NA-MI-DA【金髪文学少年の日常】
ナミダ
ナミダをナミダと名付けたのは、ナミダの祖父だった。


幼稚園に通っていた頃、迎えに来てくれた祖父との帰り道で尋ねたことがある。


「どうしてナミダはナミダなの?」


どうしてナミダは、『涙』なんていう悲しいお名前を付けられたんだろうと、幼いながらに不思議だったし、妙な不安感を抱いていた。


「……ナミダがナミダなのは、おじいちゃんが、いつもナミダには笑顔でいてもらいたいと思ったからだよ」


穏やかな口調と、繋いでいた手の確かなぬくもり。


祖父が言っていることの意味はよく分からなかったけれど、あの時のナミダにはそれで十分だと思えた。


ナミダという名前は、ナミダを想って付けられた名前なのだと、なんとなく分かったから。


それから一年後に祖父は亡くなった。


頭を撫でてくれる優しくて大きな手は、棺の中で冷たく固くなっていた。


『おじいちゃんはね、お空にいったんだよ。お空の上で、ナミダのことずっと見てるよって』

葬式。


棺の中に花を手向けながら、大人の人たちがぽろぽろと泣いている。


泣きながら、おじいちゃんのまわりをお花でいっぱいにしている。


ナミダには、まだ死というものは分からなかった。


ただその空気にのまれて、ひくっとしゃくりあげた。


おじいちゃんがもう戻ってこないなんてことは分からない。


もう二度と笑いかけてくれないなんて、まだ知らなかった。


ただ、幼い心が感じるままに、涙を零し続けた。


ぐずるナミダを腕の中であやしながら、父も静かに泣いていた。


『さぁ、ナミダ、おじいちゃんにお別れして』


黄色い花を手渡されて、濡れた顔のまま首を傾げた。


『おじいちゃんのお顔の横に、置いてあげるんだよ』


父に抱きかかえられ、言われたとおりに花をおく。


『バイバイって、言ってあげて』


優しい声につられて、そのままに言葉を紡いだ。


『バイバイ』


言った途端、なぜかまたせきを切るように涙が溢れてくる。


ナミダ、ナミダ。


大好きなしわがれ声で、もっともっと呼んで欲しかった。


バイバイ、おじいちゃん。

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