おいでよ、嘘つきさん。
いい加減、見兼ねた産婆はハッキリ言いました。

「お二人は、全く検討ハズレな事を言っている。全てにおいて!」

「町の噂がどうだとか、魔術にかけられただとか、しっかりなさい!」

「プラタナスの瞳を見てごらんなさいな。お二人よりもずっと真実を見抜く力がありますよ」


母親は、また癇癪をおこし「魔女には騙されません」
と言いました。

産婆が呆れていると、静かにしていたプラタナスが大きな声で話し始めました。

「お父様、お母様、私は正真正銘のプラタナスです。神に誓います。お母様、髪はきっとお手入れをしていなかったから違うように見えただけですわ。どうか信じて下さい」

両親はプラタナスを見つめました。

細くゆるい癖がある髪なので櫛でとかないと絡みやすい事を、確かに母親は知っていました。
だからこそ、毎日丁寧にといでいたのですから。

プラタナスは続けます。

「お医者様は魔女ではありません。だって、私の気持ちを1番理解して下さったのですもの。彼女は真剣に私の苦しみを何の偏見もなく聞いてくださった。悪魔だとか、まやかし等は一言もおっしゃらなかった。私が恥に思っている事も冷静に聞いてくれて、共感までしてくれるのです。しかも、私が必要としている事を教えてくださった。私の全てを認めて下さった事がどれほど嬉しかったか。そんな方が魔女だなんて言うのは失礼です」

プラタナスが両親にこれほど強く訴えた事がなかったため、特に母親は混乱してしまいます。

「たった一日、世話になった女にそこまで信頼をよせるなんて。異常だわ、魔女の力は強力すぎる。私の判断が間違ってた。昨日、引きずってでも連れ帰ればこんな事にならなかったはずよ!それに、ここでプラタナスを産んだ事も大失敗だわ!!」

母親は泣き崩れました。

プラタナスも途方にくれてしまいました。

父親は静かに
「これは、裁判にかけるしかありませんな」
と冷たく言い放ちました。

産婆は何を言っても無駄だ、と思いながらも疑問だった事を聞きました。

「お母様、一つ質問させてください。貴女がずっと言ってる私にかけられた魔術とは何の事ですか?」

母親はきっぱり言いました。

「豊富な髪をもっている、この子は賢くなる」

産婆は驚きを隠せませんでした。それほど深い意味はなく、単純に褒め言葉だったからです。

少し考えて産婆は言いました。

「確かに言いました。ただ、それは魔術ではありません。不幸を呪うならまだしも…。彼女を見て下さい。とても聡明に育ってるじゃありませんか。」


プラタナスは、確かに聡明に育っていました。
勉強もできますし、何よりしっかりとした自分の意思を持ち、尚且つ言葉で表すこともできるのです。
だからこそ、町の人々は少し妬みをこめて噂話をして劣等感をなくしていたのです。
そんな噂話すら、プラタナスは聞く耳を持たず自分に自信と誇りを持っていました。
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