おいでよ、嘘つきさん。
母親は悔しそうに産婆を睨みましたが、言い返す言葉が見つかりません。

産婆は続けて言いました。

「それに、プラタナスを貴女から取り上げようなんて思っていません。プラタナスはご両親を愛していらっしゃいますよ。心配かけまいと努力をしていたのですから」


母親は、力がぬけてしまいました。
なぜなら、産婆は「プラタナスを奪おうとしている」という強い邪念が力となっていたからです。

「プラタナスは戻ってくるのね。私の元に…」

ぽつりと呟きました。

父親は問いました。

「心配かけまいと…?一体、何を隠していたのです!?」

やはり、父親は隠し事が気になって仕方ない様子で、母親とは異なり力が入り少し怒った様子です。

父親は、プラタナスをたぶらかした男を見付けてやるつもりなのですから当然です。

産婆はプラタナスの方をちらっと見ると、プラタナスは少し困った顔をしましたがコクンと頷きました。

父親は今か今かと、拳を握りしめて何とか怒りを静めようと必死です。
母親は力ない表情でプラタナスを見つめています。

産婆は両親の方に顔を向け、はっきりと言いました。

「大人の女性になられたのです」

父親は、何の事か分からず拳の力がぬけました。
母親は、産婆の顔を見て目を真ん丸にしました。

産婆は気にせず続けます。

「辛い状況が続いていたようですよ。お母様、ちゃんと教育されましたか?可哀相にずっと一人で悩んでおられたのです。最初のうちは、まだ体が慣れてませんから注意が必要ですし、しっかり支えてあげて下さい」

父親は段々と話しが分かってきて焦り出しました。
母親は黙ったまま真剣に話しを聞いています。

「病院に来て頂いて良かったわ。放っておくと感染病にかかるかもしれませんからね。お腹は冷やさないように、無理な運動を避け、温かい食べ物と十分な睡眠をとらせてあげてください」

父親はソワソワして下を向いたままです。
母親はハッとして口を開きました。

「そう言えば、以前にお腹が痛いと訴えてきてたわ」

産婆はため息混じりに言いました。

「プラタナスはしっかり伝えてるじゃないですか」

両親は、恥ずかしさでいっぱいになりました。
父親は「全く、それでも母親か…」と呟きました。

産婆は母親が口を開く前に素早く言いました。

「それから、1番大切な事は決してプラタナスを傷つけないこと!」

両親は、また恥ずかしくなり下を向いたまま固まってしまいました。

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