おいでよ、嘘つきさん。
やっと父親が口を開き、

「娘を救って頂き、とても感謝しています。何かお礼をしたいのですが生憎、見ての通り裕福な家庭ではないのです。ただ、私にできる限りのお礼はさせて頂きます」

母親は少しきつく、

「そんなみっともない事言うもんじゃないですよ。どうぞ、遠慮なさらずご希望をおっしゃって」

父親は「これだから女は…」と母親と同じような事を思いながらも黙っています。
劇団員は笑いながら答えました。

「いえ、お礼なんて要りませんよ。素晴らしい娘さんと共演できただけで十分です」

両親は驚き、特に母親は感激し言いました。

「なんて素晴らしいの!すぐに物で片付けようとした自分が恥ずかしいですわ。娘を救って下さった方々だというのに情けない。お願いです!何かお礼を!させて頂けないと、私達が困ります!」

父親もこの意見には賛成のようです。

劇団員は困りました。
本当にお礼なんて要らないからです。
他の劇団員も、どうしたものか悩みました。

母親は言います。

「どうか、どうか何かおっしゃって下さいな。何でも言って頂いて構いませんのよ。うちにある物でもお金でも、何でも構いません!」

父親は「さっき言った事と違うじゃないか」と思いながらも黙っています。

母親は、とにかく何か言わせないといけないと必死なのです。

劇団員は困り果てて、笑いながら言いました。

「困りました。そうですね、まぁ願いなら一つありますが…」

母親は目を輝かせて聞きます。

「おっしゃって!叶えさせてみせますわ!」

劇団は少し間をあけて、清々しい笑顔で言いました。

「娘さんと、また共演がしたいです」


両親は「はい?」と声が揃ってしまいました。
劇団員は笑顔のまま言います。

「彼女は才能がある。才能がある者は小さな町では浮いて見えてしまうのですよ。それでは、もったいない。私は彼女を劇団員の一人として是非迎えいれたい」

両親は口が開いたまま固まっていますが、プラタナスは立ち上がり歓喜の声をあげました。

「なんて素敵なお願いなのでしょう!私も大賛成ですわ!私の夢は女優なのですもの!」

両親はプラタナスを見て驚きます。

「プラタナス、そんな夢聞いた覚えがない」

と二人は言いました。

プラタナスは両親をしっかり見つめ言いました。

「夢というのは人に言ってしまうと叶わないものよ。自分で地道な努力を積み重ねる事で花ひらくの」

とピシャリと言いました。
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