日陰より愛を
ロビーのソファに座って、出されたお茶を見つめる。
さすがに芸能事務所は綺麗だなぁ。
さっきから行き交う人々の中には有名人の姿も見受けられた。
私のことを知っている人は、誰一人としていない。
上手く隠されてきたものだ。
母親の事務所の手腕はたいしたもので、一度だって噂になったことすらない。
現に彼女はある有名俳優と正式に結婚して、おしどり夫婦で通っているのだから。
私の存在など忘れているに違いない。
そんなことを考えてぼーっとしていたら、
「お待たせしました」
と言って、目の前に人影が現れた。
その冷たい声に私は心臓が止まりそうになった。
体が震え、顔を上げることができない。
息の仕方を忘れたように、呼吸が上手くできなかった。