俺様ヤンキーに初恋を捧ぐ
なんとなく聞こえた声に振り返った私は、

龍の姿に驚いていた。

「杏、具合悪いのか?」

「・・・」


「…杏?」

・・・口の動きで何を言っているのかは分かる。

・・・でも、龍の声が全く聞こえない。

・・・さっきかろうじて聞こえた龍の声が、

私にとって最後の声だった。


私は何も言い返せない。

自分の声を出すことも不安で。

何も聞こえないのに、自分の声が、ちゃんと出ているのかも、

分からないから。



立ち止まったまま、龍の顔をぼんやりと眺める。

龍は私に何が起きているのかわからず、困惑している。


「…龍、お前はまた勝手に会社を抜けてきたらしいな。

その理由は、その子のせいなのか?」


龍の後ろから、声がして、龍だけが振り返った。


「…父さん」
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