私は彼に愛されているらしい2
「結婚しないか?」

ガシャン、と食器の騒がしい音が発生。シンクの中で手元が狂った食器はあと僅かの所で滑り落ちてしまった。残念、ミッション失敗。とか落ち込んでる場合じゃない。

待て待て、いま何を言われたのだ。

そう考えながら視線を勢いよく左右に動かして頭の中を整理する。いや分かっている、ちゃんと頭に入っている、だからこそ目を見開いて今度は固まっているのだ。

「割れた?」

「…大丈夫。」

でも自分の思考と大輔の発言は大丈夫じゃないと寸前まで出かかった言葉を有紗は飲みこむことにした。じわりじわりと育っていく感情は怒り、この感覚はきっと間違いではない筈だと自分自身に頷く。

こいつ何が言いたいんだと。

「大輔あんた…私に相手がいないと分かっていて喧嘩売ってる?」

ついこの間会ったときに親戚から結婚はまだかと言われて鬱陶しいと口を漏らしたばかりだ。そしてその話を深く話した先に今日の結婚式の話になったから覚えている筈だとひたすら心の中で大輔を非難した。

私の知らない間に自分には相手がいて、まさに今から申し込もうとする立場で浮わついているのか。

少しばかりの殺意が芽生え、有紗は音が鳴りそうなくらい携帯を持つ手に力をいれた。買ったばかりだ割りたくないと葛藤しながらも許せないものは許せない。

昨日この手の話題で舞と君塚に散々からかわれ、当分は色恋沙汰に落ち着いてもらって仕事に勤しもうとしていた時だったのに。

恋より仕事、キャリアだキャリア。それをスローガンに掲げたというのに。

「言っとくけどさ、この前の人だって上手くいかなくて…。」

「俺とするんだって。」

こうなれば八つ当たりだと勢いよく口を開いた有紗の言葉は難なく大輔に遮られた。

最初は邪魔されたことに苛立ちを覚えたが、遮ったその言葉に今度は衝撃を受ける。

「は?」

「だから俺と。」

「はあ?」

< 12 / 304 >

この作品をシェア

pagetop