私は彼に愛されているらしい2
まだチラホラとしか人影のないオフィスに有紗の声が響く。

何事かと顔を出した君塚が見えたが、目が合った瞬間にはもう扉が閉じて会議室に連れ込まれてしまった。

ここはあの時、有紗が舞を連れ込んで大輔からプロポーズを受けたと相談をしたあの場所だ。

「ちょ…舞さん、一体どうしたんですか?」

後ろ歩きのまま何とかたどり着いた会議室で有紗はようやく解放される。

改めて舞を見ればやはり厳しい顔付きのまま口を一文字にしていた。

怒っているのだろうか、それにしては様子が違うと有紗は眉をひそめて言葉を待つ。

やがて舞が息を吐くとようやく口が開いた。

「あんたさ、私の事で西島とやりあったんだって?」

「え?」

一体何の話だろうか。

しかし女子トイレでと、舞が付け足した言葉を聞いてそれが何を指しているのか分かり、有紗は何度か納得の頷きを繰り返した。

こうして改めて言葉にされると大事のようだが有紗の感覚としてはそうでもないのだ。

しかしこの様子だと色々と尾ひれがついて大きな話になっているのだろうなと苦笑いを浮かべる。

「あー、あれはちょっとお話をね。あ!そうです、それで今度皆で飲みに行きましょうって話になったんですよ。」

「はあ?何をどうしたらそんな話になるのよ。」

「西島先輩もいい人ですからね、もっとお話してみたくなったと言いますか…多分盛り上がると思うんですよね。」

有紗が話せば話すほど舞の表情が間抜けなものになっていく。

自分の掴んだ情報が真実と大きく異なっている、そう悟った舞は落ち着きを取り戻して声を低く有紗に尋ねた。

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