私は彼に愛されているらしい2
「取っ組み合いの喧嘩になったんじゃないの?」

「取っ組み合い?いいえ。」

目を細めて疑いの眼差しを向ける舞に有紗は首を傾げて答える。

視線を宙に逃がして思い出してみても取っ組み合いになった記憶はない。

勢い余って壁を思いきり安全靴で蹴ってしまったがあれはパフォーマンスに過ぎない筈だとノーカウントにした。

「小競り合いというか…全然大したことありませんよ。先輩だって騒いでないと思うんですけど。」

有紗の言葉に声を詰まらせると舞は宙に視線を逃がして少し考えてみる。

「…まあ確かに。」

ちょっとでも被害を受けようものなら周りに言いふらし慰めを求めるのが西島だ、しかし今回は何一つ騒いでいない。

だからこそ舞の耳に届くのが遅くなったのだが、確かに有紗の言うように西島は何も騒いでいなかったと舞は再認識した。

これは一体どういう事だろう、そんなことを考え出そうとすれば不思議な台詞に思考を止められた。

「飲み会はいつだって催促のメールが来るくらいですよ。」

「仲良しじゃないの。」

気を張っていた分まさかの答えに力が抜けた舞は腰に手をあてて息を吐く。

成程、どういう経緯かは分からないが有紗は西島と口論になった結果に関係をこじらせるのではなく良好な方へと持って行けたようだ。

やはり容量がいいと言うか何と言うか。

そう考えが行きつくと舞は途端に疲労が襲って来て倒れたくなった。

何だったのだ、有紗と西島の話を聞いてからの自分の心労は。まさに無駄骨だと呆れてくる。

「…舞さん?」

頭を抱える様に肩を落とす舞に有紗が問いかけた。

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