私は彼に愛されているらしい2
甘え方、東芝に教えられた言葉が不意に浮かんで口元に力を入れた。

どんな状態でも東芝は有紗にヒントを与え続けてくれている、それが大きくても小さくても必ず前に進めるきっかけにして有紗はここまで来れたのだ。

甘え方を間違えてはいけない。

そう、もう舞に対して間違えてはいけないのだ。

有紗は震える口元に力を入れて、背筋を伸ばしながら前を見た。

「実は…結婚の話は白紙になったんです。」

有紗の言葉に俯きかけていた顔を上げれば舞の目は大きく開かれて驚きを表している。

「それ…。」

「詳しくは昼に話しますよ。今日はそのつもりでいたので聞いてください。」

逃げるのも甘えるのも間違いの方向へ進まないようにと気合を入れてきた。

ふと腕時計を見ればもう戻らなければいけない時間だということに気付き、そしてこの会議室にももうすぐ朝の会議をするメンバーがやってくることを思い出した。

この状況もあの時と全く同じだと有紗は苦笑いを浮かべる。

席に戻ろう、そう言おうとしていた有紗を止めたのはドアの開く音だった。

「あれっ?」

ドアを開けたのは沢渡、これもどこかであった話だと有紗はまた苦笑いをする。

「おはようございます、沢渡さん。」

「おはよ、もっちー。舞さんまで何してんの?」

いいタイミングの登場に不機嫌な顔をすると舞は有紗の腕を掴んで会議室から出ていこうとした。

「女子ミーティング。よし、仕事するわよ!」

「あ、それでは。」

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