私は彼に愛されているらしい2
思えばこうして車に乗ること自体相手に気を持たせているのではないだろうか。

そんなことを思いながら促されるままに有紗は助手席に乗り込んだ。自分で閉めたくせにまるで牢獄に収監されるようだと思って苦笑いしてしまう。

ここは爆弾発言があった現場、隣には大輔がいる。

そう思い出してしまった瞬間にシートベルトをすることが躊躇われて有紗の動きが止まってしまった。

「これから昼飯食いに行くけど、なにか食いたいものある?」

「え?あ、…特にない。」

大輔がこっちを見つめて尋ねてきた、それだけのことに心臓が跳ねる。とても何かを考えられる状態じゃないからそう答えたが、そもそも食欲なんて全く無かった。

起きてから水分しかとっていないが緊張でお腹が空いていない。

有紗の緊張が伝わったのか、大輔は答えに何も反応せずに黙って有紗を見つめてきた。

「な、なに?」

いつもと違う雰囲気に一気に泣きそうな気分になる。

今から何が始まろうとしているの?

またフェロモンを放出されてしまったらどうしたらいいの!

そんなことを考え心の中で叫びながら体に力が入っていく。逃げるなと言われてここに来てしまったがやっぱり逃げ出したい。シートベルトをしないで良かったと有紗は早くも逃げ腰だった。

「目が潤んでる。」

そうだろう、だって今まさに泣きたい気分なんだ。

「顔も、赤い。」

そうだろう、だって心臓は痛いくらいに暴れだしてるんだ。

ドアノブに手をかければいつでも逃げ出せる準備ができている。集中ロックだってすぐに外して逃げ出してやる気持ちは大いにある。

「有紗。」

大輔が少し目を細めて手を伸ばしてきた。

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