私は彼に愛されているらしい2
「はあ…。お風呂入らなきゃ。」

昨日帰ってそのまま寝てしまったものだから化粧も落としていない。盛大なため息をついてクローゼットに向かい、とりあえず今日の服を選ぶことにした。

気合を入れていると思われたくないし、なんか体もダルイからラフな格好にしようと服を手にする。

家まで大輔が迎えに来てくれるようだし移動は車だろう。そんなに人の目を気にしなくていいなら、それが今の自分に一番優しい気がすると考えたのだ。

お風呂に入って準備を整えた。メイクもそれなり、髪形もそれなり。ネイルは忙しさに追われていたせいか、ちょっと酷い。帰ったら手入れをしようと小さな息を吐く。

のそのそと準備をしてバッグの用意が終わったころにちょうど大輔からのメール届いた。

どうやら家の前に着いたらしい。

「はあ…行くか。」

せっかくの休日に出かけるのだ、家に帰るまでため息は吐かないようにしよう。

そんな思いを込めて有紗は立ち上がった。やっぱり重い足取りは体をゆっくりにしか動かせてくれない。のろのろと靴を履いて有紗はようやく家を出た。

アパートの階段を下りているとハザードを付けて路駐している大輔の愛車が目に入る。

フレンチブルーはやっぱり夜よりも昼間の明るい空の下が似合うと思い目を細めたが乗っているのは今の有紗にとって要注意人物だ。

逃げないように釘を刺された有紗の足はため息を飲み込みながらもちゃんと車を目指して歩いていく。

気持ちは止まって引き返したい、でも体は止まってはくれない。

「有紗。」

有紗の姿に気付いた大輔が車から出てきて手を挙げた。

「お、お待たせ。」

どんな顔をして何を言っていいのか分からない有紗はとりあえずの言葉を出して答える。無駄に爽やかだなと悪態をつく元気も無かった。

「乗って。」

どこにと聞かなくても視線や流れで分かり予想する場所へ向かう。

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