私は彼に愛されているらしい2
「有紗ちゃんは本当にラッキーだね。俺なんかかなり苦労してなんとかうちの会社に入れたのにさ。この時代やっぱ学歴あっても就職って難しいよな?」

ギンガム男の問いかけに横に並ぶ男性陣は様々な反応を示した。彼らはみな同じ会社に勤める同僚で、世間のランクでいうなら有紗の会社よりかは下になるものの中々の優良企業だ。

付け加えて自慢げに語っていたそれぞれの大学名もなかなかのものだった。自分で学歴があると言えるほどに名の知れた大学であることは間違いない。

実際に出身大学を聞いた時の女性陣の反応はなかなか好感触だったのだ。

「私たちの世代って就職難だったもんね。」

「本当。就職活動ってかなり苦労した記憶しかないよ。」

「圧迫面接とかね。私なんて女性はすぐ結婚するつもりなら入社出来ませんって言われたもん。それって立派なハラスメントだよね。」

「女性陣も苦労するよな。俺ら男もなかなか厳しくてさ。」

合わせるように声を出した女の子からもさりげない棘を感じて有紗の不機嫌は増す。盛り上がりつつある就活時代の苦労話にキレた有紗は僅かに残る理性で千春を見た。

横目とはいえ、ハッキリ分かった千春の諦め顔に遠慮を無くす。

我慢する必要はない、そう判断していいってことだ。

だとしたら遠慮はしない、有紗にだってプライドはあるし黙ってやられっぱなしになってあげるような懐の大きさも持ち合わせていないのだ。

「あのさ。」

不機嫌丸出しの有紗の声は予想以上に浸透率が高かった。

少し低めの強い口調に会話が途絶えて視線が集まる。

「誤解されたままってのも癪だから言わせてもらうけど。私がいつ高卒だって言った?」

「え?」

有紗が睨むように見つめる先は目の前のギンガム男、それだけで緊張は周りにも伝わった。

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