私は彼に愛されているらしい2
「え、違うの?」

「それに、苦労知らずだなんて何で分かんの?本当のことなんてそんなの他人に分かる訳ないじゃん。違う?」

「いや…それはまあ…そうだけど。」

「高卒の人だって必死に勉強しながら毎日仕事してる。寧ろその人たちの方が詳しい時だってあるの。地元推薦だってコネだって、入社してから苦労無しの人なんている訳ないじゃん。あんたそんな人知ってるの?」

有紗の本気の怒りに気が付いたのか、ギンガム男はついに黙ってしまった。

わずかな軽口だって挟めないくらいにギンガム男の言葉にかぶせて強く言い放ってやる、相手を追い詰めるよくある手法だがここでも有効に活用できて小さな優越感が生まれた。

しかしギンガム男の表情を注意深く見る限り更に馬鹿なことを考えているようだと有紗は悟る。

「言っとくけど私、中卒でもないから。」

「あ、え…?いや、別にそんな風には…。」

この微妙な反応は頭の中でその考えに行きついていましたと言わんばかりで有紗の眉間にしわが寄る。

なぜ自分が底辺に置かれて好き放題言われなくちゃいけないんだ。

やられっぱなしなんて冗談じゃない。

少し訪れる沈黙に身を置くが、酒のせいかそれでも有紗の怒りは鎮まらなかった。むしろ増すばかり。

「私の仕事は車両設計士。」

「は?」

「国立A大学工学部出身。」

「…マジで?」

「確かお揃いの人いましたよね?私と同じ工学部出身の人。」

大学は違うけど、そんな嫌味を含んだ言葉はギンガム以外の男性陣にも十分に伝わったようだ。

「言っとくけど、地元って言っても私は一人暮らしだし実家にはお金入れてるだけだから。社会人だし当然でしょ?」

「ははは…。」

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