ノスタルジア~喫茶店を訪ねて~
 重たい足を引きずると、十字路に出た。横断歩道に赤く赤く点々とした血がついていた。
救急車は、もうすでに行ってしまい。警察が現場検証を始めていた。
「小さい女の子だってね。可哀相に」野次馬の噂話が聞こえてきた。
「体や服がぼろぼろで、あと殴られた後もあったみたい。虐待って言うのかしら」
「裸足だったみたい」
「可哀相にあの状況じゃ、助からないわね」
 頭を殴られたような、鈍い音が響いた。目の前は真っ白となり、恐ろしさに心が震えた。
 『他人の人生だから、口を挟む義理は無いけど、あんた後悔するよ』老婆の、心を見透かしたような最後のせりふが、頭から離れない。
 ひざはがくんと落ち、力が出ない。声はからからに乾く。乾いた瞳に、泉のように涙が溢れて、泣き崩れた。
(私は、なんてひどいことをしてしまったのだろう)
あの店で、私が書いた願いが頭をかすめた。
 ジブンノコドモヲコノヨカラケシテホシイ。ワタシハジユウニナリタイ。
 空は泣き声に合わせ、ポツリポツリと涙を流した。
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