【短】笑顔のままで

人目も気にせず君を抱きしめるその男が、君の、大切な人。

君が、選んだ人。


その男の腕の中で、君はどんな顔をしているのだろう。


俺には見せたことのない表情を、惜しげもなく差し出したりするのだろうか。


ため息に近い息を吐き出したあと、きゅっと唇を噛みしめた。


胸が、苦しかった。



“今でも愛してる”

なんて言わない。


人前で抱き合うことを嫌っていた君が、理由はどうであれ、男の背中に手を回していることが寂しかっただけ。

ちょっとした嫉妬心。


君を手放してしまったことに対する、少しの後悔。


ただ、それだけのこと。

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