World Walker
物別れに終わり、りせが武器庫を出て行った後。

「…盗み聞きとは趣味が悪いな」

乙女は入り口の方を見る。

紅が腕を組み、壁に凭れ掛かっていた。

「お前の理想主義はいつも誰かを怒らせると思ってな」

皮肉たっぷりに笑う紅。

彼とて乙女の理想に殉じる性格はよく知っている。

血で血を洗う動乱の真っ只中、彼女は如何なる苦境に立たされてもこの甘っちょろい綺麗事を口にし続け、最後には多くの兵や近隣諸国をも巻き込み、彼の地を平定する事に成功した。

「怒らせるのは百も承知だ。現実に逆らっているのだからな、私は」

笑みさえ浮かべて紅から視線を外す乙女。

しかしその視線を再び向けて。

「私の理想主義を知りながら、貴方は決して私から去らないではないか、紅」

笑みは満面の微笑みへと変わった。

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