エリートなあなたとの密約


ジャリ、ジャリ、と草履で前進するごとに鳴り響く玉砂利の音。


小気味よいその音はひとつでなく、隣を歩く人や周囲からも規則正しく鳴っていた。


今日は、大安の5月25日。――同時に、新たな始まりの日でもある。


晴天の名古屋市の空は澄み渡り、気温も上がって少し汗ばむほどの暑さだ。


そしてここは熱田の杜と称される、自然豊かな熱田神宮。


新緑の季節ゆえか、市内にあるこの神聖な地へと降り注ぐ日差しもまた強く感じる。


でも時折、そよそよと穏やかな風が肌を撫でていくからとても心地よい。


その中を手を取り合い、ゆっくりと時を慈しむように、厳かな社殿に言葉なく向かう。


私が纏っているのは、ちりめん地に金糸で紡がれた鶴の模様が美しい白無垢。


これはお義母さまご贔屓のお店で誂えて頂いたものである。


レンタルで済ませようとしていたところ、折角だからとお店に連れて行って下さったのがきっかけ。


着物は成人式に揃えただけの私も、一生に一度の晴れの日だからこそ拘ってみようと思い直したの。


そんなわがままな意見にも、修平はもちろん両家の誰もが大賛成してくれた。


そして真っ白な綿帽子から見え隠れするのは、白めの肌に深紅の紅をさすお化粧を施した私の緊張した面持ちだろう。


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