エリートなあなたとの密約


ようやく本題を切り出した彼に、「どうしたの?」と微笑みかける。


「急で悪いんだけど、明日の夜に会食に同席して欲しい」

目をパチクリさせながら、「わ、たしですか?」とたどたどしい声を出してしまう。


「ああ、先方のご指名なんだ。悪い」

重役の彼ゆえ何故?、と瞬時に浮かんだ疑問にも優しくフォローしてくれた彼に笑顔を返す。


「そういうことでしたら、喜んでお供いたします」

完璧な妻の行動なんてとても無理だけれど、いま私に出来る精一杯のサポートをして彼が僅かでも安息を得られるようにと願うから。


「サンキュ!そうだ、スーツじゃなくて良いから。いつも通りでよろしく」

「え?良いの?ていうより、お相手は……」


「ああ、相手はナイショ」

「ナイショ!?」と仰天して反芻した私にも動じることなく、煙に巻いてしまう修平。


いつまで経っても大人になれない、と自身に呆れてしまうけれど。――この時も楽しそうな眼差しを向けてくるので、まだ何かを隠しているはずだ。



「……それで、本当にどなたなんですか?」


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