禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
「とても信じられぬ話ですが副長殿と聖女殿が言われるのだから誠でしょうなあ。
だがしかし、この国の文献には魔法の歴史など何も書かれていない事には変わりませぬ。あいすみませんが儂にはお力にはなれそうもありません」
老人の謙虚な辞退に、溜め息を吐いてアンもミシュラも諦めるしかなかった。
椅子から立ち上がり部屋を出る前に、アンはもうひとつ聞きたかった事を思い出して老人を振り返った。
「そうだ、あの。聖女、聖女については何か記録は残って無いですか?」
「聖女?」
老人とミシュラがそろって声をあげる。
「はい。ヨーク将軍は私を…聖女を殺さずに拐うと言っていたんです。あと…なんだっけ、鍵がどうのとか」
アンの話に老人はますます深く眉間に皺を刻んだ。
「うーむ…聖女も聖旗同様で資料がほとんどありませんゆえ…。ただ、聖旗を守る乙女としか」
「…そう」
再び肩を落としたアンにミシュラはポンと背中を叩くと
「アン、聖堂に行ってみよう。地下に教典が何冊かあった筈だ」
そう言って彼女を励ますようにニッコリと笑った。