スイートペットライフ
「お弁当……」

ダイニングテーブルの上には、いつも通り私のお弁当が用意されていた。

徐にきちんと包まれたランチクロスをはずす。

蓋を開けるとそこには、いつもよりも一個多い出汁巻き卵。

指でひとつつまみあげてほおばる。大好きないつもの味が口いっぱいに広がった。

もぐもぐと咀嚼して味わう。それと同時に何故だか頬を涙が伝った。

何が悲しいのかやっと気がついた。

大倉さんの行動が行き過ぎているのはもちろんだけど、それは今始まったことではない。彼は今まで通り、何ら変わらないのに……。

自分の発した『ただの飼い主』この言葉が、自分にブーメランのように帰ってきて心をえぐっていた。

自分がどうしてあんなことを言ってしまったのか、やっと理解できた。

いつもいつもペット扱いされることが嫌になってきている。決して大倉さんと一緒にいるのが嫌なわけではない。

ただ私は“ペット”なのだ。『かわいい』と言われようが『特別だ』と言われようが私は所詮ただのペットだ。

大倉さんが“ただの飼い主”なわけじゃない。“ただのペット”なのは私だ。

自分の心の中に芽生えた新しい感情。ただ自覚するたびに私の胸はキシキシと痛んだ。

私は朝日が差し込むダイニングで一人涙を流しながら淡々と出汁巻き卵を食べ続けた。
< 174 / 249 >

この作品をシェア

pagetop