スイートペットライフ
「お、奥さん?」
そう尋ねた私にコクリと静かに頷くだけの大倉さん。
あらためてソファを見ると、その妻と呼ばれた女性は私を値踏みでもするようにじろじろと見ていた。
そしてソファの後ろには、眼鏡の背の高い無表情の男性が控えていた。
いつまでも固まって動けない私と、心配する大倉さんに痺れを切らしたのか楓さんが声をかけてくる。
「私、話があって今日はここに来たの。申し訳ないけれど部外者は出て行ってもらってもいいかしら?」
「楓!」
大倉さんが楓さんの言葉を遮る。彼女の言っている部外者は間違いなく私だ。
「し、つれいし…ます」
そう答えて床に落としたままのバッグを拾う。
「ミィ、真田に迎えに来させるから今日はカメリアホテルに泊まって」
腕を掴まれて、顔をのぞきこまれる。
「カメリアホテルですね。真田さんわざわざ呼ばなくても大丈夫です。一人で」
そう言って自分を奮い立たせた。ここで泣くことは許されない。だって私はその権利なんて一つも持っていないんだから。
明らかに作り笑いと分かる笑顔を浮かべて玄関に向かう。
「後で迎えに行くから――」
大倉さんの声が後ろから追いかけ来たけれど遮るようにドアを閉めた。
エレベーターまで走って、さっき乗っていたエレベーターに飛び乗り『閉』のボタンを連打する。
一階のボタンを押すと思わずそこに座り込んでしまった。
さっきは涙があふれそうなんて思っていたけど、実際は一粒もこぼれなかった。身体の色々な機能が停止したみたいだ。
エレベーターが一階に到着してコンシェルジュのおじさんが「おでかけですか?」と声をかけてくる。力なく「はい」とだけ答えてマンションを後にした。
以前あの部屋に綺麗な女の人が尋ねて来ていたときは、完全に私を優先してくれていたのに、今日は奥さんを部屋に残した。あの部屋は私と大倉さんの部屋なのに。そんな醜い思いが身体中に渦巻く。
スマホを取り出して電話帳を表示した。こんな日に一人でいられるほど私は強くない。
「もしもし、急にごめんなさい。今夜泊めてもらってもいいですか?」
電話の相手にお願いした。
そう尋ねた私にコクリと静かに頷くだけの大倉さん。
あらためてソファを見ると、その妻と呼ばれた女性は私を値踏みでもするようにじろじろと見ていた。
そしてソファの後ろには、眼鏡の背の高い無表情の男性が控えていた。
いつまでも固まって動けない私と、心配する大倉さんに痺れを切らしたのか楓さんが声をかけてくる。
「私、話があって今日はここに来たの。申し訳ないけれど部外者は出て行ってもらってもいいかしら?」
「楓!」
大倉さんが楓さんの言葉を遮る。彼女の言っている部外者は間違いなく私だ。
「し、つれいし…ます」
そう答えて床に落としたままのバッグを拾う。
「ミィ、真田に迎えに来させるから今日はカメリアホテルに泊まって」
腕を掴まれて、顔をのぞきこまれる。
「カメリアホテルですね。真田さんわざわざ呼ばなくても大丈夫です。一人で」
そう言って自分を奮い立たせた。ここで泣くことは許されない。だって私はその権利なんて一つも持っていないんだから。
明らかに作り笑いと分かる笑顔を浮かべて玄関に向かう。
「後で迎えに行くから――」
大倉さんの声が後ろから追いかけ来たけれど遮るようにドアを閉めた。
エレベーターまで走って、さっき乗っていたエレベーターに飛び乗り『閉』のボタンを連打する。
一階のボタンを押すと思わずそこに座り込んでしまった。
さっきは涙があふれそうなんて思っていたけど、実際は一粒もこぼれなかった。身体の色々な機能が停止したみたいだ。
エレベーターが一階に到着してコンシェルジュのおじさんが「おでかけですか?」と声をかけてくる。力なく「はい」とだけ答えてマンションを後にした。
以前あの部屋に綺麗な女の人が尋ねて来ていたときは、完全に私を優先してくれていたのに、今日は奥さんを部屋に残した。あの部屋は私と大倉さんの部屋なのに。そんな醜い思いが身体中に渦巻く。
スマホを取り出して電話帳を表示した。こんな日に一人でいられるほど私は強くない。
「もしもし、急にごめんなさい。今夜泊めてもらってもいいですか?」
電話の相手にお願いした。