スイートペットライフ
―――途端に違和感。

普段なら消えているはずの電気がついていること。そして男物と女物の靴が一足ずつ。

大倉さんと私のものではない。

二人不思議に思って、顔を見合わせてからゆっくりと大倉さんが中の様子をうかがいながら前に進む。私は大倉さんの影に隠れながら不測の事態に備えてスマホのキーロックを解除していつでも外部と連絡を取れるようにした。
大倉さんが一気にリビングのドアを開ける。

すると中から聞こえて来たのは――女性の声だった。

「おかえりなさい。時臣さん」

その声の主はいつも私が座っているソファの定位置に綺麗な足を組んで座り、優雅に紅茶を飲んでいた。

大倉さんの表情を確認すると、始めは目を見開いて驚いた顔をしていたけれどその後、暗い重い表情へとすぐに切り替わった。彼のあまり見ない表情に私の心も一瞬で冷える。

この目の前に座る綺麗な女性が招かれざる客だということだけはすぐに理解できた。


「お久しぶり、時臣さん。あら?もしかして久しぶり過ぎて妻の顔も忘れたのかしら?」

ドサリ――。

私は手に持っていた荷物をその場に落としてしまった。そしてすぐに拾えないほどうろたえている。

妻?それって奥さんってことだよね?大倉さん――結婚していたの……?

呆然自失。その言葉通り動かなくなった私を心配そうに大倉さんが肩をゆする。

「ミィ大丈夫?」

はっと我に返って大倉さんを見ると、いつもならありありと感じられる感情が彼の瞳から何一つ感じられない冷たい目をしていた。

「彼女、大倉 楓(おおくら かえで)僕の奥さんだ」

決定打を打たれて、頭の後ろを殴られたぐらいのショックが走る。
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