Esperanto〜偽りの自由〜
覚醒


マンダリンの陽光が刺す丘陵を、菘は歩いていた。何が目印がある訳ではないが、ただ真っ直ぐに歩く。


やがて、一軒の小屋に辿り着いた。菘はその小屋を一瞥すると意を決したように扉に手を掛けた。


「……ふふ、ノックはしないのかな」


背後から聞き慣れた声が響く。菘は声の主を無視するとゆっくりと扉を開けた。

「そういえば、この間キミの『お姉ちゃん』が来たよ」


『お姉ちゃん』、の部分をことさら強く発音する相手に菘は苛立つ。


「・・・ねぇ、もう私達に関わらないでよ」


怒りを抑えた声は、自分でも驚くほど冷たく、自分で聞いてぞっとした。


「なんで」


「なんでも、だよ。もう、薺を苦しめないで」


声の主、芹は肩を竦め、菘の後に付いて小屋に入る。


「……久しぶりだね、此処に来るの」


芹は小屋内を見回し、ほぅと息を吐く。


「最後に来たのは…」


「薺がまだゼファだった時だよ。あの時は私もまだ何も知らなかったから」


目を細めて小屋を見回し菘は丁度人3人が座るのに適したソファに座る。


「……クォーツ」

「その名前で呼ばないで、今は菘だ」


「……だったね・・・」


芹は立ち上がると菘に近付き、そっと口付けをした。菘はそれに応え首筋に手を回す。


「・・・ねぇ、芹は今でも、ジュンクの儘なの……」


囁くような声は、芹には届かず虚空に消えた。


(……ju、k……q・・・ot…………zeph……ファ……・・・オー……stin……)


《ノイズ》が淡々と響く中、芹と菘は抱き合っていた。


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