無垢・Age17
 AV女優の橘遥さんも好き好んでさせているはずがないと思う。
幾ら仕事と割り切っても、耐えられる訳がないと思った。

監督のたてた筋書き通りに演技する。
それでもリアルさが要求される。
その果てがあの拉致だったのではないだろうか?

彼女自身、何度も恐怖を感じたに違いない。

東京で生きる道を模索した結果があれだったのかも知れない。
私はそう思った。




 (アイツ……じゃあない、一番上の兄貴だけじゃなかったなんて)
私は兄貴もホストになったと思って本当に困り果てしまっていた。




 私は慌てて兄貴が入ったホストクラブの前に向かった。

でも、ふと横の道に目が行った。
兄貴はその道を歩いていた。


私は何勘を違いしたんだろ。
もしかしたら、兄貴もホストかも知れないなんて思っていたんだ。


(あぁ私のおっちょこちょい)

そんなことを思いながら歩いていると、大きな通りに出会した。


其処は驚いたことに新宿区役所だった。


「歌舞伎町にあるの!?」
私は思わず叫んでいた。




 その声に兄貴が反応して振り向いた。


「お前、こんなトコで何してる!? もしかしたらお袋に頼まれたな」

図星だったので、私は素直に頷いた。


「俺は二十歳だから本当なら国民年金を納めなくちゃいけないんだ。だけど俺は学生だから免除されるらしいんだ。だから、その手続きをしようと思ってな」

兄貴はそう言って、又区役所に向かった。


結局、彼女のことは解らずじまいだった。
だけどきっと年金のことはその彼女の教えだと思った。
だって勉強は出来るけど、世間知らずの兄貴にそんな知恵があるとなんて思えなかったから。

私はしっかり者の姉さん女房になってくれることを期待して東京を離れることにした。




 私はもう一人の兄貴に田舎に帰ることを告げた。


「此処で良かったら、何時でもおいで」
アイツはそう言いながら、部屋の鍵をくれた。


私は嬉しいのか悲しいのか判らなくなった。
妹だと知っているからだと思ったのだ。


私は失恋した。
自ら初恋にピリオドを打った。
その傷みに耐えながら又列車に乗る。


(田舎に着くまでに気持ちを入れ替えよう。母に悲しい思いをさせたくないから)

私は小さなボストンバックを手に持ちながらそう誓った。




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