かっこ仮。の世界。
玉若が妖狐であることは清明から聞いている。妖狐が妖の中でも特に強いということも。
そして高位の妖ほど人間に興味がないということも。
なのに玉若はそうは思えないほど人間に詳しい。
首を傾げたものの、今はそんなことは重要ではない。
「透理、早よう来やれ!夕餉の支度を怠るなど居候の片隅にもおけぬわ!」
好きで居候してるんじゃないわっ!
と、透理は思ったが、玉若に逆らう勇気もない。
清明は?と視線を送れば、すでにどこ吹く風。
「すいませんでした」
不条理だ。と思いつつも透理に残された選択は、素直に謝って従うことのみだった。
私、何も悪くない。
そんな言葉を飲み込んで、透理はすごすごと玉若に従った。
いつかごめんなさいと言わせてやる!と胸の裡で密かに決意を固めつつ、項垂れて炊事場へ向かおうとすると。
「玉若。明日から昼餉と夕餉の支度から透理を外せ。コレにはやらねばならぬことがある」