かっこ仮。の世界。
「問題はそこじゃないわーっ!あんたが呼び出したんでしょ⁉だったら帰す方法だって知ってるんでしょ⁉衣食住どーこーの前に、帰る方法を教えるのが先でしょ!」
普段、冷静沈着と評価される透理も、こんな事態で冷静さを保てるわけがない。
いや、冷静さを保てる人間がいたら、それはもう正気をどこぞの彼方に投げ捨てた人間だと思う。
これまでの人生でここまで必死になったことがあるだろうか?
透理は半ばパニックに陥った頭の隅で、ぼんやりとそんなことを思う。
なのに。
「あー……」
安倍なんたらと名乗る男の目が遠くなる。
嫌な予感というのは、得てして外れないものだ。
ひくり、と口元が引き攣る透理と対象的に、清明はあっけらかんと笑った。
『この召喚術式、試作なんだよねぇ。上手く呼び出せたら式神にするつもりだったから、返還術式まで研究してないんだ。あははは〜』
あはは、じゃねぇっ‼
おまえ、マヂいっぺんあの世逝ってこいよ!
清明の着物の襟首を掴んで、容赦無く前後に揺すった透理の行動を一体誰が責められるのだろうか。