かっこ仮。の世界。

『まぁまぁ。落ち着いてよ?これでも悪いと思ってるんだから。ところで君、名前は?随分と変わった格好だけど…』


ガクガクと揺さぶる透理の手をなんなく抑え込んで、清明は首を傾げて透理を見下ろしていた。


ち……近いっ!


いや、自分で近づいておいてなんだけど、至近距離で見ると清明という男は、実に美男子で。


首を傾げて見下ろす姿に、思わず胸がきゅんとしちゃったよ、あはは。


なんて呑気に思ってしまったあたり、透理の正気も大概怪しくなっているのかもしれない。


『ここじゃゆっくり話もできないから、とりあえず僕の邸に行こうか。その格好もどうにかしないとねぇ…目立つのは嫌いじゃないけど、変な目立ち方はしたくないし』


にこにこ。


あぁ。


なんかもう、日本語が通じてる気がしない。


これがマイペースという人種なんだろうか。


『そんな血塗れの女の子連れてたら、僕が検非違使に捕まっちゃうし』


あ。


そうだった…頭からよくわからない生き物の血をどっぷり被ってたんだっけ。


ダメだ。


透理は、確実に自分の感覚が麻痺し始めていることに気付いて、ふらりと気が遠くなった。


世界が暗転していくのを、他人事のように眺めていた。

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