ロング・ディスタンス
 男の言葉を聞きながら、栞は奥歯を噛みしめた。ここで負けてはならないと彼女は自分自身を鼓舞した。
「じゃあ、何で私の誕生日を忘れたの? 久しぶりのデートもすっぽかしたの? 連絡なんてほんのちょっとメールを送ればいいことじゃない! あなたにとって私なんて、所詮その程度の存在なのよ!」
「だから、そのことはごめんって謝っただろう。だから今夜だってこうやって時間を作って埋め合わせを……」
「やめて! もう、言い訳はうんざりなの!」
 彼女の声は上ずっている。
「栞。もしかして好きな男でもできたのか?」
 神坂がたずねる。
 栞はうなだれたまま何も返さない。
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