ロング・ディスタンス
「俺と別れたいなら正直に言ってくれ」
 神坂の問いに彼女はうなずく。
「誰だ? 俺の知っている男か?」
「あなたには関係のないことでしょ」
「関係なくはない。これだけ長い付き合いだ。俺との関係を切りたいならそれくらい教えるべきだろう」
 押しの強さは相変わらずだ。この強さに栞はいつも負けてしまう。
「……長濱先生よ。外科の研修医の」
「長濱って、あの『30過ぎの新人』のあいつか?」
 栞が首肯する。
 神坂の顔が一瞬こわばり、それから緩んだ。
「あはははは! よりによってあいつか! お笑い種だな!」
 男が腹に腕を置いて笑っている傍らで、栞はうつむいていた。
 そして彼は車に乗り込み、すぐに去っていった。
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