ロング・ディスタンス
 しかし、太一の対戦成績は思うように伸びなかった。1年経っても2年経っても、プロになるチャンスをつかむことはできなかった。そして25歳を目前にして、彼は試合で左脚を痛めた。負傷した直後は歩行も困難になり、医者には格闘技の続行は不可能だと診断された。失意の中、太一は病院でリハビリを始めた。ジムからは脱会した。
 現役時代にあれほど献身的に太一を支えてくれた百合花もいなくなった。彼女はいつの間にかジムに所属する別の有力選手に乗り換えていた。太一の一年後輩のその男は、戦績の落ち込んだ太一と入れ替わりに頭角を表し、プロデビュー確実と目されるようになっていた。彼女は格闘家として世に出ることができる男が欲しかったのだ。
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