ロング・ディスタンス
 こうして神坂と栞は元の鞘に収まった。

 心の平穏と入れ替わりで手に入れたのは愛されているという安心感だった。栞は数年後に結婚すると言う神坂の言葉を信じている。毎晩、彼からもらった指輪を手にはめて、それを矯めつ眇めつ眺めている。見ればみるほどきれいなリングだ。こうしていると今この瞬間にでも彼の花嫁になったような幸せな気持ちになる。

 長濱にはすぐに別れを告げた。正直に「前から好きな人がいたのだ」と言った。彼はとても寂しそうな顔をしたが彼女を引き留めはしなかった。栞の良心がとがめた。

 それでも神坂との未来を思い描くとそんな罪悪感も吹き飛んでしまう。これまで何度も願っていたけれど叶わぬ願いだった彼との結婚がやっと叶うのだ。考えるだけでも幸せで胸がいっぱいになってしまう。夜眠る時、栞は彼との新婚生活を思い浮かべながら甘い気分に浸っている。
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