ロング・ディスタンス
「は、バカだね。そんなその場しのぎの方便にだまされるなんて。結婚するなんて単なる口約束でしょ! 4年後とか5年後ってどんだけ先の話よ! 初めから守る気がない約束じゃないの!」
 客観的な立場から見たら、愛人を逃したくない男の調子のいい言葉だということがわかるが、恋に酔っている女にはわからないのか。お高い指輪までプレゼントするなどという手の込んだ茶番劇まで演じて、神坂という男はよほどツラの皮が厚いのだろう。

「ああいう野心家が子どもとコネのある奥さんを捨ててまで、あんたの所に来るわけないでしょ! それにあんた、人の不幸の上にあぐらをかいてまで幸せになりたいわけ?」
「そう言うと思っていたよ。だから成美にはわかってもらえなくていいんだ。私だけは先生を信じて待ってるから」
「一生待つことになるでしょうね」
「何とでも言って」
 成美は失望からキノコ鍋パーティーの話をする気力も失せた。
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