ロング・ディスタンス
「成美。私のこと軽蔑してもいいよ。もう私に会いたくなくなっても構わない。またしばらくさようならかな」
 栞の言葉には、友情が壊れても構わないから不倫相手との愛を貫きたいという強い意思が表れている。こっちの友情をそうかんたんに踏みにじってもらっては困る。

「栞。私らは高校時代からの付き合いだよ。あんたが不倫してるからといって、私はあんたと友達やめたりはしないよ。それにあんたに私の考えを押し付けるわけにはいかないもんね」
 成美がしっかりとした口調で諭す。
「ただ、お願いがあるよ。これ以上、私の前であの医者の話はしないでね! 金輪際ごめんだよ!」
 どんな男か見たことはないが、あの厚かましい男のことを考えるだけで胸糞が悪くなる。責任を取らなくていい関係を存分に楽しんだのだから、別れを望む女を解放してやるのがせめてもの男らしさというものではないだろうか。 
「うん、わかった。がっかりさせてごめんね、成美」
「もう一つ言っておくよ。男の本質は言葉じゃなくて行動で判るんだからね」
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