ロング・ディスタンス
 以前のように、栞は愛人の神坂と会えればそれで幸せな生活を送るようになっていた。彼を太陽のように崇める彼女は、彼の周りを巡る惑星のような存在だ。もしも太陽が陰ることがあればその存在は消滅してしまうだろう。

 10月と11月の連休も今度のクリスマスも、神坂と会えるということはなく、栞は一人きりの長い休日を過ごす。将来ずっと一緒に暮らせると思えば、そんなことぐらい我慢できると彼女は考えている。月に2,3度、神坂の都合に合わせて呼び出され、ほんの2時間ほどの逢瀬をいつものホテルで楽しんでいる。

 一人の夜は薬指に指輪をはめ、来るべき日のことを思い浮かべながら幸せな想像に浸っている。― 私が彼の妻だったら、今の奥さんとは違って家庭のことをないがしろにはしない。あの時はあきらめてしまったけれど、いつかは彼の子どもが欲しい。― 栞はそんな健気なことを願いながら孤独な生活に耐えている。全てはいずれ報われるのだからと。
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