ロング・ディスタンス
 あれから栞は成美と連絡をとっていない。

 もちろん彼女がふってしまった長濱からもその後一切接触はない。

 ただ、間の悪いことに、長濱に神坂と二人でいるところを目撃されてしまった。
 一度、夜間の人気のない喫煙所で、神坂と仕事帰りの栞が話していたのだ。神坂は相変わらず大胆なことをする。そこへ、偶然長濱が仕事場のゴミを捨てに現れ、二人の姿に気づいた。二人は体を触れ合ってわけではなかったが、ただならぬ雰囲気は十分に漂わせていた。
 長濱に気付いた神坂は、得意げな笑みを彼に送った。
 栞も長濱の存在に気が付いた。彼は目を大きく開いてこちらを見ていた。
 それから黙ってその場を去っていった。暗がりの中、脚をわずかに引きずって歩く後姿から、栞はなかなか目を離せなかった。

 それは確かに間の悪いことだったが、もはや栞にはたいしたことではなかった。
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