ロング・ディスタンス
 島の診療所での仕事の仕方は研修先の大学病院とは多少異なる。総合病院のように専門が細分化されていないから、幅広い症例に対応しなければならない。内科医の辻堂などは小児科医も兼ねている。シフトに関していえば非番はあってないようなもの。医師の数が限られているから、急患が出た時は休みの日も診療所に駆けつけないといけない。
 のっけから大変な所に来てしまったかもしれないと太一は思った。だが、それが彼の選んだ道なのだから仕方がない。彼は暇さえあれば医学書に首っ引きになっている。

 初任者の4月は目まぐるしく過ぎていく。

 4月中旬のある日、彼の携帯になつかしい人からメールが入った。大学病院での世界は早くも「なつかしい」と形容できるほど、彼の心は島での生活に支配されている。
 前任地の病院の事務員、児島栞からメールが来た。彼女は病気が治ったから、島まで彼に会いにきたいのだという。
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