ロング・ディスタンス
 相手のことを思って助言しても、反対に相手から怒られたり、聞く耳を持ってもらえないということは、疲れるしアホらしいことだと思った。徒労だった。そんな思いをするくらいなら、誰かがものすごい窮地に陥っていたとしても、余計なお節介なんか焼かないことにしようと思った。
 その人物が自分にとってさして重要な人物ではないのであれば、である。

 でも今回は違った。苦境に立たされているのは他でもない親友である。相手に煙たがられてでも、本当のことを言ってやりたかった。
 妻子持ちの男と不倫をしている女は、まるでカルト宗教にでも入信したかのように、その男に酔っていると巷では言う。相手の男はさしずめ、「教祖様」と呼ぶべきか。他人が何を言っても耳を貸さず、自分が相手にとっては単なる遊び相手にすぎないのに、自分たちだけは特別なのだと錯覚しているのだと聞く。
 栞の例はまさにその典型だった。
 成美は友人を救いたかった。彼女の母親は、娘にこんな人生を歩ませるために、女手一つで彼女を育てたわけではない。家族の立場を思うと、栞の母親や姉のことが不憫でならない。
 
 親友を不倫の泥沼からすくい上げるには、さてどうしたものかと思った。やいのやいのと批判的なことを言っても今回みたいに逃げられるし、さりとて黙って傍観するわけにもいかない。これは難しい問題だった。
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