ロング・ディスタンス
 太一は栞をリビングに招き入れて、ローテーブルの前の座布団に座らせた。

 彼は一人住まいだが、リッチにも2LDKの物件で暮らしている。栞が暮らすワンルームのアパートとは大違いの広々とした家だ。
「結構広い所に住んでいるんですね」
「うん。ありがたいことに離島に来る医者は厚遇されているよ。去年まで狭いワンルームに暮らしてたんだけどね」
「それは良かったですね」
 リビングの本棚には医学書や専門書がギッシリと並べられている。日常的にそれらを読んでいるらしく、テーブルの周りにも複数の本が転がっている。
「お勉強しているんですね」
 たくさんの書籍を見て栞が言う。
「うん。ここでの治療は幅広いからね。色々な症例に対応しなきゃいけないんだ。いつも本に首っ引きになっているよ」
 太一が医者としての経験を着実に積んでいることが見受けられる発言だ。
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