ロング・ディスタンス
「結局、彼女は負け犬になった俺を捨てたからね。結果的に彼女の本性がわかって良かったのかもしれない」
「その時はそうとうひどい傷を負ったんですね」
「そりゃあ、もう立って歩けないくらい、骨折れまくりの筋切れまくりだった。リハビリで歩けるようになったのは奇跡だよ」
「そうだったんですか」
 当時の太一の心情を思うと、栞の胸が痛んだ。

「古傷が再び痛む可能性はあるんですか」
「うーん。こればっかりはわからんよねえ。立ち仕事で脚を酷使しちゃいけないんだけど、ああいうハードワークでしょ。可能性がないとは言えないよね」
「先生。もし先生の古傷が悪化してお仕事ができなくなっても大丈夫です。私で良ければ頼ってください。私、資格職ですし、いざとなったら先生を支えていけると思います。あんまりいい暮らしはできませんけど」
 太一は何も返さない。
 横目で見ると、彼は憮然とした表情を浮かべている。
 まだ付き合いも浅いのに、ちょっと差し出がましいことを言ってしまったかなと栞は思った。
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