ロング・ディスタンス
雷鳴
 新しい仕事を始めるとそれに慣れるのに時間がかかる。そこでの仕事のやり方を覚えなきゃいけないし、職場の同僚とも馴染まないといけない。

 栞が勤め出した私立病院の事務部員は彼女も入れて6人。彼女の他に、50代の男性二人と40代の女性一人、30代の男性と女性が一人ずついる。50代の男性の内一人が事務部長であり、彼は寡黙でひたすら仕事に打ち込むタイプだ。

 もう一方の50代の男性職員、藤野がこれまたクセのある人物だ。事務部長を差し置いて仕切り屋で、新人の栞に対して自ら教育係を買って出た。仕事を教えてもらうのはありがたいことなのだが、彼は相手の一挙手一投足にダメ出しをするタイプだ。作業をするそばからあれこれ言われたら、口うるさくてかなわない。おまけに人の言うことには必ず反論してくるひねくれ親父だ。
 藤野が席を外した時に、事務部長が「児島さん、藤野さんにはびっくりしたでしょう。ああいう人だけど気にしないでね」と言った。他の同僚もやはり彼を煙たく思っている人がいるようだ。40代の勝気な女性職員などは、傍から見ていても彼と仲が悪いのが判る。二人が仕事のやり方で口論しているのを聞くと、周りの人間はハラハラする。人事異動のない職場に就職したというのに、この先人間関係で苦労しやしないかと栞は不安になった。
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